体力が落ちたファンドなどに代わり買収資金の出し手としてJR東の存在感が高まる背景には、山手線など東京圏の在来線が安定したキャッシュ(現金)を生んでいることがある。財務分析でいう「キャッシュカウ」(雌牛のミルクのようにカネを生む事業)が不況で輝きを増しているのだ。
路線ごとの収益は非公表。だが「(運輸業の)営業利益の大半は東京圏で稼ぐ」(同社の幹部)という。これを手掛かりに減価償却費や設備投資などの公表データを勘案して試算(詳細は表)すると、東京圏の在来線は前期、二千五百億―三千億円見当のフリーキャッシュフロー(純現金収支=自由に使えるお金)を生んだとみられる。
この水準のキャッシュが毎年、安定して出てくる。埼玉や横浜などを含む東京圏の支社管内の旅客運輸収入は十年以上、八千億円台。二〇〇二―〇三年のデフレ期も落ち込まず、ここ三年間は一―二%増加した。今後懸念される不況も、地方の雇用機会減を通じ都市圏への一極集中を後押しするとの見方がある。
東京圏の在来線が生むキャッシュは多角化事業への戦略投資を賄って、なお債務圧縮などの余力を残す規模だ。JR東は今期から三年間で一兆四千億円の設備投資を予定。鉄道事業の安全対策への投資も四千五百億円あるが、流通、不動産などの非運輸事業にも四千億円を投じる。
産業界に投資縮小の動きが広がるなか、商業・オフィスビルの開発案件は目白押しだ。東京駅八重洲口のビル(グラントウキョウノースタワー)第二期開発や渋谷駅再開発など、主要案件だけでも検討中を含め、二十程度が同時進行中だ。
テナント入れ替えや改装など駅スペースでの商業投資に絞っても、その額は前期で百六十一億円。統合前の三越(百九十八億円)や伊勢丹(百八十九億円)など競合する百貨店の投資規模に匹敵。消費減速で投資余力が弱る百貨店に対し、駅上、駅ナカの潜在集客力を秘めるJR東の商業投資は今後も増える。
運用ファンドで同社の株式を保有するさわかみ投信の沢上篤人社長もこうしたJR東の成長期待に注目する一人。「安定性より新しい事業展開に注目している」と話す。
ただ、長期計画によると、約十年先の利益構成も鉄道が七、流通・不動産など多角化事業が三で、現在とさほど変わらない。ここ数年の多角化投資は年率一―二割で増加しているが、利益の伸び率は劣るのも事実だ。
少子高齢化で鉄道事業も長い目で見れば盤石とはいえない。買収・提携の打診など、不況で増す選択肢をどう生かすか。
民営化から約二十年。内々には精密なダイヤ管理のノウハウは輸出可能と、海外鉄道への展開研究も始まった。従来のJRの枠を飛び越え、次はどんな戦略を打ち出すのか。清野智社長の言う経営の「ギアチェンジ」が注目される局面だ。(佐久間庄一)
